点数評価 | 90点 |
プレイ状況 | 2周クリア トロフィー:100% |
プレイ時間 | 約10時間 |
発売日 | 2017年11月16日 |
対応機種 | Switch/PS4/PS Vita/Steam |
プレイ機種 | PS Vita |
開発元 | Sukeban Games |
発売元 | PLAYISM |
ジャンル | サイバーパンクバーテンダーアドベンチャー ジャンルの考え方 |
ベネズエラ初のディストピアノベルゲームで、バーテンダーとして選択肢の代わりにカクテルを作成する。なんていう前情報に胸をときめかしながらプレイしてみると、待っていたのはCERO“D”なセクシャルトークのオンパレードだ。また、海外産ゲームでありながら、過去に例が無い程に日本のサブカルがゲーム内に取り入れられており驚かされる。音楽はディストピアな場末のバーに完全にマッチしており、ムーディな曲がラインナップされている。ゲームプレイしなくてもせめてストリーミングサービスで聴いておきたい。サントラはゲームミュージック界屈指の名盤だ。
【総合評価】 | |
革新性 | |
ユーザビリティ | |
ビジュアル | |
サウンド | |
プレイ継続性 | |
コストパフォーマンス |
VA-11 Hall-Aの大ジャンルはアドベンチャーゲーであり、公称ジャンルは“サイバーパンクバーテンダーアドベンチャー”となっており、そのジャンルが示す通り主人公はサイバーパンクな世界のバーテンダーだ。一般的なアドベンチャーゲームでは、主に会話の選択肢によって物語の展開が変化するが、VA-11 Hall-Aでは客に提供するカクテルが選択肢の役割を果たす。
上記のスクリーンショットはゲームのオープニング画面だ。これらだけを見ると硬派でディストピア気味のサイバーパンクな世界観を感じ取ることができるだろう。しかし、いざプレイしてみると本当に海外産ゲームか!?と疑いたくなるレベルの日本愛が詰まっており、これぞCERO“D”と言いたくなるような、アダルトな会話がオンパレードの異質なアドベンチャーゲームだった。
実は一本道のストーリー
VA-11 Hall-Aは、ひたすらテキストを読み進めて、選択肢の代わりにカクテルを提供するアドベンチャーゲームである。適切に分岐を進むためには、常連の好みを覚える,感情を読んで最適なカクテルを提供する,抽象的な要望から想像でカクテルを選ぶなどが必要となる。提供したカクテルが正しければ、上機嫌な客と会話を楽しむことができ、イベントフラグが立つ仕組みである。一定条件を満たせば、スタッフロール後にオマケの短いシナリオを幾つか楽しむことができる。
見事に要望を的中させれば会話が弾むが、間違えると機嫌が悪くなる客も多い。間違ったカクテルを出し続けた場合、バーのボスに呼び出されてゲームオーバーになるが、難易度は決して高くないので意図的に間違えない限りは問題無いだろう。
ゲームの目的はバーテンダーとして働いて金を稼ぐこと。ただそれだけであり、最終的には稼いだ金で家賃が払えるか払えないかで、グッドエンドとバッドエンドが分岐する。エンディングの分岐でバッドエンドになったとしても、家が無くなった代わりに、巨乳ハッカーの家に居候することになるだけで、特別なにか悪い終わり方をする訳ではない。また、物語を通じて主人公ジルはある出来事にケジメを付けるのだが、バッドエンドになったとしてもその核心的部分は影響を受けない。
つまり、VA-11 Hall-Aは提供するカクテル(=分岐)で枝葉は違ってくるが、基本的には一本道のゲームなのである。なんせ主人公ジルは、朝起きるのが辛いからという理由でバーテンダーとして働いているだけの、怠惰な27歳のレズビアンの女だ。腐敗した世界をどうにかするような大層な目的は無いし、ディストピアに隠された秘密を解き明かすような力も無い。最後までどんでん返しは起きないし、そもそも金が無い理由も酷い。
ただただ、バーテンダーとして客にカクテルを提供して(材料を選んで混ぜる)、それに応じた会話をする(テキストを読む)だけのゲームである。会話パートが終われば自宅に帰ることになるのだが、そこでは部屋の装飾品を買い足すか、コタツ(ベネズエラ産のゲームなのに!)に入って出勤時間までタブレット端末で2ちゃんねる風スレッドを見るだけの生活が待っている。
そのため、サイバーパンク&カクテルで分岐する物語という部分に惹かれてVA-11 Hall-Aに手を出した人は評価を下げるかもしれない。しかし、Amazonなどを見てもらえば分かるが、VA-11 Hall-Aの評価は★5に近いぐらいに高い。つまり、ゲーム内容が想像と違ったとしても大半の人は高評価を付けるのである。
何故かというと、単純にVA-11 Hall-Aのテキストが面白いからである。サイバーパンク物と言えば、ぶっとんだ倫理観や改造人間などが定番だが、それらがこれでもかと詰め込まれている。そんなオタク達が大好きな要素が存分に練り込まれた過激なストーリーは、一本道に読み進めるだけであっても十分に面白く、一度クリアした後は隠し要素(=提供する特殊なカクテル)を調べてトロコンまでプレイしようと思わせてくれる魅力が詰まっている。従ってVA-11 Hall-Aのことは、繰り返し読み返したくなるような、“超高品質なライトノベル”と認識すれば良いだろう。
特徴的キャラと不快感の無いセクシャル発言
VA-11 Hall-Aの舞台は207X年で、人工知能搭載セクサロイドでも人間と平等に生きることができる世界だ。登場人物はなんでもありで、キャットブーマという猫耳娘から、透明ケースに入った喋る脳ミソや、全盛期のニコニコ動画のような配信者などなど、おかしなものばかりだ。頻繁に登場するリブ生地セーター巨乳ハッカーなど、無個性も同然に霞んでしまうようなカオス状態である。
また、主人公ジルの勤務先は場末のバーなので、集まってくる客も店員もそれ相応で、世界観とも相まって会話の大半はアダルトなものである。初対面から現実世界なら確実に大問題に発展する話を振ってくる客や、テキストだけを抜き出すと何ら官能小説と変わらないような内容がゴロゴロと出て来る。
抜き出したテキストだけを見るとインパクトはあるものの、これらの会話シーンは、実際にプレイしていると不思議と不快感は無い。それは、ドぎついセリフが登場するまでの流れが、世界観込みで良く練り込まれているからである。VA-11 Hall-Aに魅せられたプレイヤーは、このようなテキストを読んでも“下ネタ見せられた”と感じるのではなく、“あるバーの当たり前の風景を見かけただけ”と納得するだろう。
また、サイバーパンクな世界ならではのアダルト表現も豊富だ。特にセクサロイドのドロシーはその手の話題に事欠かない。次のスクリーンショットは、VA-11 Hall-Aで最も優れたローカライズテキストの一つと言えるだろう。原文がどのようなものか知らないが、作品の方向性を汲み取って、このテキストを産み出した才能にも感謝したい。
ちなみに、登場人物が延々とセクハラし合うゲームといえば、ニンテンドーDSの無限のフロンティアがある。如何にも下品な会話という感じのあれを、徹底的にブラッシュアップしたうえで、表現をよりハードにしたものを想像すれば近いかもしれない。
音楽から入るのもアリ
一般的なゲームでは、物語の展開に合わせて最適な音楽が最適なタイミングで流れてくるものだ。しかしVA-11 Hall-Aの場合は、バーテンダーである主人公があらかじめ用意したプレイリストで曲を流すことができる。
プレイリストの順に流れるだけなので、会話のタイミングに合わせて曲を変えることはできないが、どれもバーの雰囲気にマッチしたものなので違和感はない。また、用意されている楽曲はどれも完成度が高く、ゲーム関係なしに音楽単体でも十分に聴いていられる。(ニコニコ風配信者のテーマ曲だけは異質だが)
そもそも、筆者がこのゲームをプレイした理由は、Amazon Music Unlimitedで偶然目に付いた、VA-11 Hall-Aのサウンドトラックを聴いたからである。サブスクリプションサービスで聴く⇒気に入ってレコードを買う⇒CDの現物も欲しくなって買う⇒折角なのでゲームをプレイ という、通常とは全く逆の入り方をしている。
VA-11 Hall-Aをプレイするかどうか悩むという人は、まずは音楽から雰囲気を探ってみても良いだろう。なお、VA-11 Hall-Aの楽曲は、ゲームミュージックに関する名著であるゲーム音楽ディスクガイドでも取り上げられている。大半が1ページ4作品でまとめて紹介されているところを、1作品で半ページ使って大きく紹介されていることからも、評価の高さを伺い知ることができる。
なお、VA-11 Hall-Aを起動すると、“飲み物とおつまみを用意してリラックスした状態でプレイ”を促されるが、終始この推奨スタイルの通りに緩めなトークを楽しむことができる。可能であればオシャレなカクテルでも用意して、間接照明の中プレイしても良いかもしれない。
本作は内容にクセはあるものの、小気味好い会話とシリアス過ぎない展開を楽しみつつ、最高の音楽に包まれるという至福の時を過ごすことが可能なゲームである。ハードで緊張感のあるアクションものばかりをプレイしているゲーマーの気分転換にも最適なゲームだろう。
【追記】ねんどろいど ジル・スティングレイ商品化決定
ゲーム発売から4年8か月以上経過した2022年7月2日、主人公ジルのねんどろいど化が決定した。インディーゲームが発売からこれだけ時間が経過してから立体化するのは異例中の異例だ。愛され続けるゲームであることの証明である。
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