ゲーム音楽ディスクガイドは2019年5月31日に発売された、田中 “hally” 治久 (著, 監修)の名著。その評判の高さから僅か1年3か月で第2弾が2020年8月26日に発売された。第2弾の内容も第1弾同様に素晴らしく、音楽に少しでも興味を持っているゲーマーには是非手に取って貰いたいので紹介する。
ゲーム音楽ファン必携の一冊
ゲーム音楽は偉大なアートであるという事は、ゲーマーなら誰もが理解していることである。ゲーム音楽はゲームを構成する重要な要素の一つであるが、プレイフィーリングやグラフィックなどに比べると、具体的にどの様なゲームに、どの様なジャンルの音楽が採用されているかまで詳細に説明できる人は少ないだろう。
実際に、筆者もゲームレビューを投稿する際には、余り音楽については触れていない。というのも、詳細に音楽まで評価を書こうとすると、目で見るor手で動かすとは別に音楽的な教養が必要となる上に、後から発売されるサントラを待たねばならず、予算的にも厳しいこともあるからだ。そのような事情から、おのずとゲームレビューは音楽からはフォーカスがやや外れがちだ。
ゲーム音楽ディスクガイドには、ゲーム業界の名盤が新旧問わずに片っ端から取り上げられており、ゲームの音楽情報を把握するのに最適な一冊である。多くのページで、1ページに3,4作品まとめて取り上げられているが、その限られた文字数の中に音楽評価や作曲者の情報が、これでもかと言うぐらいに圧縮されており、非常に濃い内容になっている。この本さえ持っていれば、多くのゲームのレビューにおける音楽の項目をカバーできる。
タイトルに2冊必要と書いてあるが、何故かというと、この本は辞典的な使い方で読むからである。そして、この本を読むと間違いなく、ゲーム音楽に対する意欲を掻き立てられ、翌日からサントラ探しに奔走するか、サブスクリプションサービスやYoutubeで検索しまくる事になる。本の構成上、欲しい情報が各所に散りばめられているので、何度も何度もページをめくる事になる。しかも、この本はカバーも無く紙質もさほど強くないので、間違いなく直ぐに痛んでボロボロになる。よって、保存用にもう1冊必要になる。
本の構成について触れておくと、一律に音楽ジャンルで作品がまとめられている訳ではなく、各章で大分類としてゲーム音楽の歴史を追いつつ、さらにその中の小分類として音楽ジャンルやメーカーに別けられている。具体的な大分類は以下の通り。
- 黎明期の音楽
- サウンドチップの音楽
- ミニマルサンプリングの音楽
- ハード的制約から解放された音楽
- ダウンロード配信世代のゲーム音楽
Kindle版で情報を調べて、紙版を保存用としても良いかもしれないが、第1弾も第2弾も情報が載っている部分は250ページぐらいあり、よほどゲーム音楽に精通していない限り、作品を知っている前提の調べ方ではなく、知らない情報と出会うことがメインの使い方になるので紙媒体の方が使い易いだろう。
余談だが、上の写真の右側に載っているレコード、『スーパーマリオブラザーズ マリオ・シンドローム』の裏面はドット絵のピーチ姫が描かれている。筆者もこのレコードを持っているが、レコードジャケットの大きさからインテリア性能も高く、自室に飾っているお気に入りの1枚である。
ディスクガイド2の非音源化作品集は執念の塊
1年3か月余りで発売された続編、ゲーム音楽ディスクガイド2の構成は以下の通りだ。
- 第1弾で紹介しきれなかった物の補足
- 非公認音源
- 音盤化されていないゲーム音楽
1.は基本的に第1弾と同じような手法でCDが紹介されている。ゲーム音楽ディスクガイド拾遺集とでも表現するべき内容だ。
拾遺集でも取りこぼした作品は、同人誌「ゲーム音楽レヴュウ」で紹介されている。
ディスクガイド2の特筆すべきは、3.の“音盤化されていないゲーム音楽”特集である。定番のファミコンやスーパーファミコンだけではなく、プレステやドリキャスのマイナー作品や、海外のフロッピーディスク媒体のゲームまで、驚くべき量のゲーム音楽が紹介されている。音盤化されていない以上、実プレイかネットに転がっている動画から情報を収集するしかない訳だが、その紹介している数の多さには感服する。
もちろん、定番の非音盤化作品も紹介されている。例えば高額プレミアゲーとして有名な“ごきんじょ冒険隊”は、その幼稚園児のパッケージ絵から想像できない、森彰彦のRPGサウンドで有名だ。
少しでもゲーム音楽に関する知識を深めたい人は買い!
ゲームの音楽は芸術だが、やはりゲームはゲームの本編があってこそである。そのため、ゲーム本編がクソゲーだった場合、名曲にも関わらず遺憾にも音楽まで評価が及ばないことが多々ある。しかし、ゲーム音楽ディスクガイドでは、陽の目を見なかったゲーム音楽たちも取り上げられており、知識を深めることができる。
例を挙げると、上の写真はクラブ音楽作品が紹介されているとある1ページだ。右下にPS2の“魔術師オーフェン”のサントラが紹介されている。“PS2 魔術師オーフェン”は、原作ラノベがアニメ化された流れで、メディアミックスの一環で無理矢理ゲーム化しただけのクソゲーだ。従って、このゲームは最早クソゲーコレクターぐらいしか遊ばないので、その音楽が幾ら名曲だったとしても、誰かと語り合う機会など、まず無いだろう。
しかし、ゲーム音楽ディスクガイドを読めば、こういう隠れた名作を知ることができる。ちなみに、このサントラはアマゾンを確認したところ、レビュー数はたった2件だけだった。陽の目を全く浴びていない。
次は、“ハード制約から解き放たれた音楽”のある1ページを紹介する。
超名作オープンワールドゲーム、ゼルダの伝説ブレス・オブ・ザワイルドと並んで、オプーナが紹介されている。オプーナと言えば2008年頃に、オプーナを買う権利を与える!というアスキーアートのネタで一世を風靡したため、タイトルだけは知っているという人は多いだろうが、いざ内容を語れる人は極僅かという迷作だ。そんな作品も、実は崎元仁作曲の素晴らしい音楽が採用されている事がしっかりと紹介されている。
ゲーム音楽ディスクガイドを読めば、ゲーム自体がクソゲーやネタゲーで、音楽まで広く評価を受けていないゲームを発見できることが嬉しい。
また、第1弾の後ろの方には、アレンジサントラを紹介する章が載っている。原曲からどのようなアレンジが加えられたかしっかりと説明が載っているので、賛否両論が出ることの多いアレンジを購入時したい時の判断材料にもなるだろう。
ゲーム音楽ディスクガイドのアレンジの項に載っているサントラであれば、個人的には“ロックマンX アルフライラwith大坪稔明”を名盤として推したい。
ゲーム音楽ディスクガイドは少々値段が高い本だが、読むのに数日掛かるレベルの内容なので、ゲーム音楽好きの為の辞書だと思って購入するべし。ゲーム音楽について興味があるなら買っても絶対に後悔しないはずだ。
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