【スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー】レビュー: クリア直前の強化武器の爽快感は本物。しかし、その過程が面白く無いうえに、周回プレイも即飽きる

点数評価
クリア時間1.5時間(初回)
プレイ状況武器7種類でクリア
プレイ時間約8時間
発売日2024年2月22日
対応機種Switch
プレイ機種Switch
開発元任天堂
発売元任天堂
ジャンルアクションシューティング
ジャンルの考え方
ネタバレ無し
総評/評判/感想

『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー』は、近頃の流行りに乗っかってスプラトゥーン3をローグライク化した作品だ。しかし、ローグライクゲームに最も求められているはずのシナジー構築を一切楽しむことができず、何度も周回することが前提になっているにもかかわらず、その周回が致命的に面白く無い。超強化された武器を振り回す爽快感こそあるものの、それを得るための過程に何一つ付加価値が無いため、厳しい結果になってしまった。ローグライクの格好こそしているが、ローグライクの本質を楽しめない子供騙しな作品である。

【総合評価】
革新性
ユーザビリティ
ビジュアル
サウンド
プレイ継続性
コストパフォーマンス

『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイドオーダー』は、『スプラトゥーン3』におけるVR空間「ネリバース」に存在する「秩序の塔」を舞台にした、プレイヤーの能力を「カラーパレット」で強化しながら遊ぶ、一人プレイ専用のモードである。オクトリングの主人公「ハチ」を操作し、何度も繰り返し挑戦できることが特徴となっており、いわゆるローグライクゲームに分類される。

テンタクルズのイイダが作ったVR空間が舞台
テンタクルズのヒメは、VR空間ではドローンの姿を得て主人公ハチをサポートする。

ローグライクTPS化したスプラトゥーン3

『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー』は、スプラトゥーン3のシステムを流用してローグライク化した一人プレイ専用のモードである。

全30フロアで構成された秩序の塔を1階ずつクリアしていき、30階にてプレイヤーを待ち受けるオーダコを倒せばクリアとなる。一般的なローグライクゲームでは、ステージクリア後にランダムに提示される3種類の報酬からプレイヤーが好みのものを取得していくことが多い。しかし本作の場合は、報酬がステージの難易度とセットで事前に開示されており、ステージ開始前から報酬の効果が適用される。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー ステージ選択
カラーパレットの効果はどれも超強力。

報酬はカラーパレットと呼ばれる強化アイテムであり、プレイヤーは階層毎に必ずカラーパレットによる強化を積み重ねていく。カラーパレットはそのカラーで系統が判別できるようになっており、例えば赤色であればインクによるダメージ、紫であればインクの回復や効率、緑色であればヒメドローンの性能アップなど、非常に分かりやすくなっている。そのため、ローグライクゲーム初心者であっても、迷った場合はとりあえず色さえ揃えておけば、ローグライクゲームで肝心となるステージの報酬によるシナジー効果を発揮しやすくなっている。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー クリア報酬
最大で36個のカラーパレットを設定可能。

また、カラーパレットと同時に、ステージの難易度に応じてショップで使えるネリコインと呼ばれる通貨が手に入る。特定の階層とステージ選択時にランダムに出現する自動販売機では、ネリコインを消費することでカラーパレットを購入できる他、ブキのスペシャルやサブを別のものと交換することが可能となっている。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー 自販機
ローグライクゲームではお馴染みのショップ。残機が減っていれば補充も可能。

さて、秩序の塔ではスケルトーンと呼ばれる不気味なサカナ達が敵として出現するのだが、それらはかなりの大群となってプレイヤーに対して圧を掛けて来る。そのため本作は、1人でサーモンランをプレイしているような感覚に近いだろう。しかし、カラーパレットによるブキやステータスの上昇率が非常に高く設定されているので、サーモンランで時折支給されるクマサン印のブキのような性能を発揮しながら、とんでもないインク回復力やスペシャル増加量で立ち回って切り抜けることができる。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー スケルトーンの群れ
半透明で骨が見えた異形のサカナ達。

次の動画は超強化したローラーを振りながら、短期間にスペシャルを何度も発動して敵が出現するポータルを破壊しようとする様子だ。視界を埋め尽くすほどの敵に襲われながらも、インクが尽きることなく異常な速さでローラーを振り回し、スペシャルを連発して難なくクリアしている。

本作ではこのように、全11種類のブキをプレイヤーの好きな方向性で超性能にカスタマイズし、敵の大群を無双する爽快感を味わうことができるようになっている。このような大群を一人で制圧できることが、本作の魅力と言っても過言では無いだろう。

カラーパレットのシナジー構築が面白く無い

さて、『スプラトゥーン3』をローグライク化した『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー』だが、前項に上げた仕様だけを見ると面白そうに感じるかもしれないが、結論から言うと期待していたほど面白く無い。

“スプラトゥーンに登場するブキを、プレイヤーの好みに合わせてカスタマイズできる”にもかかわらずそこまで面白く無い理由は、事前に与えられていた情報が全てであり、何一つ想像の域から抜け出さない仕上がりだからである。

本作では、フデに移動能力強化を積みまくって超速移動を可能にしたり、チャージャーにホーミング機能を付けて敵に当たりやすくしたり、ブラスターの効率を上げて連射し続けたり出来る訳だが、それらは実に在り来たりな強化だ。本作に登場するカラーパレットはいずれも、既存のギアによる強化の延長線上にあるものばかりで驚きが全くない。

これらのカラーパレットを取得すれば当然ながらプレイヤーは強化されるのだが、“強くなって当たり前”のカラーパレットしか用意されていない点が問題だ。例えば、どうやって使えば良いのか分からないカラーパレットでも、幾つかのカラーパレットと組み合わせることで凄まじいシナジー効果を発揮できるような、“能力の組み合わせの可能性を探求する”といったローグライクの醍醐味は皆無と言って良いだろう。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー クリア時のカラーパレット
何を取っても強くなるので、深く考える必要は無い。

また、デメリット無しで絶対に強くなるカラーパレットしか用意されていない点も、ローグライクゲームとしての面白さを損ねている。カラーパレットに何一つデメリットが設定されていないので、取捨選択を誤ったことでクリアが難しくなるようなリスクは無く、カラーパレットの組み合わせが上振れすることはあっても、絶対に下振れすることはない。

Sara
Sara

ダメージを大きく上げる代わりにインク消費量アップや、追尾性を得る代わり移動力ダウンといった、トレードオフの効果を持つカラーパレットは存在しない。メリットだけを享受できる。

武器によってカラーパレットに出やすい系統が設定されたり、シンジュによるバフで系統の出やすさの調整などもできるが、結局は威力高めて高速連射するかアイテムを大量に出しまくる構築に辿り着きがちだ。先を見据えてカラーパレットの構築を考えなければならない難易度でもなく、全30階層の終盤にクマサン印の武器のようなものを作って無双するだけである。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー カラーパレットの確認
強化状況の確認ができるか、そもそも確認したくなるような状況にならない。

本作の周回毎の到達地点が、“異常に高性能になったブキを振り回してスペシャルを発動しまくる”状態になること自体は良いだろう。しかし、このような状態になることに何一つ障害がないことが問題なのである。 ローグライクゲームとは、その結果よりも知恵を絞って困難を切り抜ける過程に価値があるのだが、本作は残念ながらその過程に何一つ楽しさが用意されていない。もっとカラーパレットの取捨選択に意味を持たせて欲しかったところである。

Sara
Sara

考える必要があるのは、せいぜいチャージャーぐらいだろう。チャージ中は隙が生まれるので、それを補うことを考えるぐらいか。

ちなみに、初心者やウデマエが低いプレイヤーの救済となるはずのヒメドローンによる支援だが、こちらには大きな地雷が仕込まれていることに注意したい。ヒメドローンを延々と強化し続けて、ヒメドローンをメインにしてプレイヤーが支援に回るという構築も可能だが、時折ヒメドローン使用不可のステージが出現することがある。そうなると、ドローン特化で強化していた場合は、プレイヤーは一切のカラーパレットの効果を持たないままに戦うことになる。特に周回の終盤にそのようなステージを引いてしまうと、熟練のプレイヤーでも残機を失う難易度になってしまう。

周回要素が一切面白く無い

『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー』は、ローグライクゲームらしく何回も繰り返し遊べることを特徴として挙げている。一般的にローグライクゲームは初回クリアまでが実質的にチュートリアルのようなものであり、クリア後に解放されるコンテンツや追加難易度が本番というものが大半であり、本作もその例に従っている。

本作の場合、初回クリア後にエンディングを迎えた後は、全てのブキで秩序の塔を登ってクリアするように促される。また、周回を重ねる毎にラスボスであるオーダコとのやり取りに変化が現れ、ネリバースに関する情報が徐々に開示されていくという仕組みになっている。しかし残念ながら、本作は肝心の周回を楽しませるための要素が欠落しており、全ブキでクリアしたいという意欲は沸いてこない。

まず、本作のステージは、ステージの勝利条件,ステージの形状,出現する敵の傾向,出現する敵の多さなどがランダムに組み合わさって構成される。このようなランダムな組み合わせ自体は問題ないのだが、勝利条件の種類が少なく同じことの繰り返しになってしまっている。

ステージの勝利条件は、敵から一定時間エリアを守ったり、敵を避けながらプロペラヤグラを運んだりする、既存のバトルをアレンジしたようものが2種類。それに加えて、敵が出現し続けるガチホコバリアのようなポータルの破壊と、指定された位置までボールを運ぶ作業の2種類を合わせた、合計4種類しかない。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー ガチエリアのアレンジ
ガチエリアのアレンジ。

ステージ形状や敵の種類が変わりはするものの、30階層まで遊ぶ頃には「たった4つのルールを延々と繰り返すのか?」という疑問で頭がいっぱいになるだろう。対人戦やCo-opプレイであれば少ないルールであっても繰り返し遊びたくなるものだが、完全に一人用のモードであれば『スプラトゥーン3』本編に収録されている、ヒーローモードのような多様性が無ければ辛い所である。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー ガチヤグラのアレンジ
インクを撒きながら進むプロペラヤグラ。

また、ラスボスは固定なうえに、10階と20階で出現する中ボスは3種類しか用意されていない。この手のローグライクゲームであれば、ラスボスは固定であったとしても10階と20階にそれぞれ3種類、合計6種類の中ボスを用意しておいて、それらのボスを見据えてカラーパレットのビルドを構築するという遊びにするべきだっただろう。中ボスの多様性の無さが、前項で問題点として挙げた、カラーパレットの取捨選択の意味の無さに拍車を掛けている。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー 中ボス。
周回するにもかかわらず、中ボス3種類は少なすぎる。
Sara
Sara

開発期間は1年以上あったと思われるが、それであればもう少し頑張って欲しかった。

加えて、周回を繰り返しても難易度が一切上昇しない点も問題だ。プレイヤー側は、30階に到達してオーダコを撃破してクリア、あるいは途中で倒されて1階に戻された場合に、それまでに入手したカラーパレットがシンジュという通貨に換算し、それを消費して恒久的なバフを得ることができる。そのため、周回を繰り返す度にプレイヤーは強くなっていくのだが、ゲームの難易度は固定なので、周回を繰り返すほどに作業感が増してくる。オーダコから情報が開示される度に、秩序の塔に何らかの妨害ギミックが追加されたり、敵の性能がアップするなどの難易度上昇が欲しかったところだ。

スプラトゥーン3  サイド・オーダー シンジュによるバフ。
様々なジャンルでプレイヤーに有利に働くバフ効果を得ることができる。カラーチップの偏り強化で盤石。

以上のように本作は、初回だけは無双感を楽しめるかもしれないが、カラーパレットのシナジー構築に研究の余地が無いうえに、ゲーム内容は単調で飽きやすく、周回を重ねるほどに難易度が一方的に下がっていくという、消化試合を延々と繰り返すような残念なプレイフィールとなっている。

評価ポイントのまとめ

『スプラトゥーン3 エキスパンション・パス サイド・オーダー』は、ローグライク化したは良いものの、ローグライクの面白さを搭載し忘れた作品である。スプラトゥーン3の世界観の補完を絶対にしたい人以外は購入不要である。

長所

  • 無双感を味わうことができる
  • 本編同様に音楽が良い

短所

  • シナジー研究の面白さ無し
  • 下振れするリスク無し
  • 勝利条件の種類が少ない
  • 周回毎に難易度が上がらない
  • エレベーターのテンポが悪い
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