【Vault of the Void】レビュー: デッキ構築型カードゲームの初心者から百戦錬磨の猛者まで、あらゆるプレイヤーを満足させる傑作 – ヴォルト オブ ザ ヴォイド

点数評価100点
プレイ状況インポッシブル+11まで
プレイ時間約20時間
発売日2022年10月5日
対応機種Steam
プレイ機種PC
開発元Spider Nest Games
発売元Spider Nest Games
ジャンルデッキ構築型ローグライト
ジャンルの考え方
総評/評判/感想

StSとVotV、どちらが上かと聞かれたら筆者はVotVが上だと答える。StSも素晴らしいゲームだが、カードゲームに馴染みがないプレイヤーにとっては敷居が少々高い。一方でVotVはチュートリアルや易しい難易度も充実しており、間口の広さでVotVに軍配が上がる。デッキ構築型ローグライクとしては、対応力のStS、計画性のVotVと求められる能力が異なっている。デッキ構築型ローグライクとしての新たな可能性も感じることも出来た。

【総合評価】
革新性
ユーザビリティ
ビジュアル
サウンド
プレイ継続性
コストパフォーマンス

Vault of the Void (ヴォルト オブ ザ ヴォイド)は、デッキ構築型ローグライクカードゲームとして有名な、Slay the Spireの明確なフォロワー作品だ。プレイヤーはスターターデッキを持ってゲームを開始し、カード間のシナジーを考慮しながらデッキに手を加えていく。構築したデッキを使ったターン制バトルを繰り返し、ステージボス2体、前座2体、ラスボスを倒せばクリアとなる。ローグライクゲームでありながら、多くの要素をプレイヤーがコントロールできることが、最大の特徴となっている。

遂に現れた、Slay the Spireを超えるデッキ構築型ゲーム

デッキ構築型ローグライクカードゲームの始祖である“Slay the Spire”が、2019年1月23日に正式リリースされて以降、スターターデッキに手を加えながら戦うという“デッキ構築型”ゲームが大量に産み出されている。

Slay the Spireと全く同じスタイルのターン制バトルは当然のことながら、超高速なアクションゲーム要素を加えたものや、タワーディフェンスを謳いながらも“紳士向け”サービスを提供するものまで登場している。デッキ構築型ゲームは最早、ゲーム業界の一大ジャンルとなったと言えるだろう。

そんな無限の可能性を感じさせるデッキ構築型ゲーム界隈だが、多くの人々は長きに渡って、

Slay the Spireこそ、原点にして頂点である。

という評価を下してきた。

しかし、2022年10月5日以降、同ジャンルの頂点は、Slay the SpireではなくVault of the Voidであると、異を唱える人が出てくるかもしれない。それほどまでに、Vault of the Voidは良くできた作品だ。

Sara
Sara

筆者はStSよりも、VotVの方が上だと考えている。

ランダム要素を極力排除したデッキ構築型

Slay the Spireとの類似点と相違点

Vault of the VoidはSlay the Spireと同じく、構築されたデッキから毎ターン手札を補充し、与えられたエナジー(マナ,コスト)の範囲内でカードを使用し、敵を撃破するターン制バトルのカードゲームだ。分岐するルートを任意に選択し、カードの補充、バフ効果を発動するレリックや消費アイテムの取得、カード強化や複製のイベントなどを経てラスボスに備えるという、ゲームの一連の流れは全く同じである。

Vault of the Void カードの複製
StSでいうところのデュプリケーター。
Sara
Sara

VotVの基本的なシステムはStSと同じ!

一方で異なる点を挙げると、真っ先に気が付くのはカードの配置だろう。Slay the Spireでは左右に敵と自キャラクターが表示されていたが、Vault of the Voidでは敵が上部に表示され、自キャラクターは体力ゲージのみが表示される。

また、敵からのダメージ計算にも差異があり、体力へのダメージは即時発生するのではなく、次の自ターン終了時に発生する。つまりSlay the Spireのように、敵からのダメージ予告に対して防御カードを先出しして防ぐのではなく、予告通りに受けたダメージ(脅威と表示される)を防御カードの後出しで相殺し、相殺しきれなかった分だけを受け入れるというシステムだ。

Vault of the Void 戦闘の様子
このターン終了時に39ダメージを受け、次は26のダメージが予告されている様子。

その他にも、不要なカードを捨ててエナジーに変換できたり、使用しなかったエナジーやカードを次のターンに持ち越せるなど、さまざまな差異が確認できる。

しかし、これらの差異は些細なもの(というと語弊があるかもしれないが)である。Vault of the Voidは『ランダム要素を減らし、可能な限りプレイヤーの手にコントロールを委ねる』というコンセプトで制作されたゲームであり、ローグライクゲームでありながら、ランダム性による振れ幅が小さいことが最大の特徴となっている。

対応力よりも計画性が重視される

デッキ構築型ローグライクゲームの醍醐味といえば、カードを慎重に取捨選択し、カード間のシナジーを最大限に発揮することだ。望んだカードが全て手に入るとは限らず、完璧なデッキに仕上がることは稀であることから、開示されているボスを考慮して、如何にデッキの妥協点を見つけられるかという対応力が求められる。

一方でVault of the Voidの場合、ステージ単位にはなるが、どの分岐を進めばどんなカードが手に入るかが予め開示されている。加えて、ルートプランナーという分岐をシミュレートする機能まで用意されているので、誤ってルートを選択することもない。

Vault of the Void ルートプランナー
ルートプランナーで取得カードの計画を立てずにプレイするのは無謀。

ラスボスは固定であり、ステージ毎の中ボスは変化するものの事前に開示されている。戦闘においてはダメージ計算や攻撃順序にランダム性も無いため、クリア出来ないということは、プレイヤーの計画性の無さの現れである。言い換えれば、ローグライクゲームだが、クリア出来ないことを運に責任転嫁することは難しいゲームであると言えるだろう。

デッキ構築は麻雀に例えると分かりやすい

デッキ構築型ローグライクゲームにおける、デッキ構築過程は麻雀に似ている。麻雀は、初期手牌を山から引いてきた牌と任意に入れ替えながら役を作る遊戯だが、これをデッキ構築型ローグライクに当てはめると、初期手牌はスターターデッキであり、役はカード間のシナジーだ。

Slay the Spireを例えるならば、初期手牌が固定された麻雀だ。それに対して、事前に取得カードが開示されているVault of the Voidは、ツモ(引き牌)を予め予告された麻雀であると言えるだろう。ちなみに、Vault of the Voidのスターターデッキはクラス毎に2種類用意されており、最初からある程度のシナジーが用意されている。これは点数の低い役が最初から出来上がっている初期手を好みで2種類から選べるようなものだ。

Vault of the Void 初期デッキの選択
4つのクラスそれぞれに、2種類のタイプが用意されている。

更に、Slay the Spireではデッキから排除したカードは二度と戻ってこないが、Vault of the Voidの場合は、いったんデッキから外したカードであっても、後から自由に何回でもデッキに組み込むことが出来る。これも麻雀で例えれば、河から捨て牌を拾って手牌を調整できるようなものである。しかもカードの入れ替えは、戦闘マスで敵の詳細を確認してからでも可能だ。

Sara
Sara

敵に合わせてカードを入れ替えるのは基本戦術。

こう書くと、Vault of the Voidは簡単なゲームに思えてくるかもしれないが、実際にはそんなに簡単なゲームでは無い。麻雀はどれだけ手配が完成していたとしても、無理して通そうとして他人に振り込むことがあるように、Vault of the Voidも僅かなミスでデッキが回らなくなりクリア出来なくなる。

Vault of the Void 大ダメージを与える様子
計画通りバフ・デバフを積み上げて、0エネルギーの一撃で強敵を倒すシーン。役満のようなもの。

構築したデッキからの引きは流石にランダム要素になるが、ドロー枚数強化のバフ、デッキから引く前に捨て札に送る“選別”、捨て札から1枚選ぶ“取得”、初手で手札に必ず出現する“天賦”、追加ドローするポーションなど、手札をコントロール手段は豊富だ。そのため、“ドロー運が悪くてクリア出来なかった”は通用せず、“ドロー周りの調整が甘かったからクリアできなかった”と認識しなければならない。

幾つかのローグライクゲームのレビュー記事でも書いているが、そもそもローグライクゲームは運ゲーではない。チャレンジングな高難易度なモードを除いて、ランダム要素が下振れしたとしても対応力があれば十分クリアできる。Vault of the Voidもランダムに出現するザコ敵や、ランダムに提示されるレリックの取得で対応力が必要になることもあるが、ゲーム全体から見ればそれらの影響がクリアに影響する割合は低く、ルート選択の計画性の方が支配的である。

Vault of the Void レイブンのギフト
マイナス効果を受け入れるかどうかの選択肢もあるが、後からどのタイミングで除去するか、ルート選択が正しければ影響は少ない。
Sara
Sara

ローグライクは運ゲーにあらず。クリア出来ないのはプレイヤーのスキル不足。StS,VoV共に、猛者なら通常モードであれば、100回プレイしても100回クリアできる。

初心者から上級者まで幅広く遊ぶことが出来る

前項にて、Vault of the Voidは運の要素が排除されたゲームであることを説明した。クリア未達の際に言い訳が出来ない厳しいゲームだと思うかもしれない。実際に高難易度のチャレンジングなモードでは、頭を捻らせまくってプレイすることになるが、この仕様は初心者がデッキ構築型ローグライクを楽しむことに大きく貢献している。

デッキ構築型の初心者に優しい

ローグライクゲームは決して運ゲーでは無い訳だが、この手のゲームの初心者の場合、“運ゲーでは無い”という認識に至る前に、クリアを諦めてしまうことが多い。Vault of the Voidの場合、対応力よりも計画性が重視されるため、敗因を掴みやすく行動改善が比較的容易であり、考える意欲があるプレイヤーであれば離脱せずにプレイ継続することが可能だろう。

無駄なカードでデッキを埋められてお手上げな状態。こんな状況も1回喰らえば、次回からは対策カードを狙って構築できる。

また、1プレイの中で何回もデッキを入れ替えできる点も初心者に優しい。ゲームオーバーになると、デッキ構築を全てを最初からやり直す羽目になるのは、Slay the SpireもVault of the Voidも同じだが、Slay the Spireはデッキ構築の再現性が低いため、特定環境における試行回数を稼ぐことが難しい。しかし、Vault of the Voidは途中でカード入れ替えることが出来るため、クリアが出来ないにしても一部のカードを入れ替えるだけのような試運転を簡単に行えるので、初心者の上達速度も早いはずだ。

デッキ構築型の上級者でも延々と遊べる

Slay the Spireは一度本編をクリアすると、登塔という上級者向けモードが解禁され、最大レベルの20を目指してクリアを重ねていくゲームだ。Slay the Spireはそもそも通常モードでも難易度が高く、チュートリアルも存在しないので、流行りに乗っかって手を出したものの、クリア出来ずに投げたプレイヤーも多い。

それに対してVault of the Voidは、ノーマル、ハード、インポッシブルと難易度が3段階に分かれている。体感的には、インポッシブルでSlay the Spireの通常難易度程度であり、その後に解禁されるインポッシブル+が本番となっている。

Sara
Sara

しっかりとチュートリアルも用意されている。

後から解禁されるインポッシブル+は、様々な制約をプレイヤーが選んで追加できるモードだ。敵の攻撃力や体力は最大に設定された状態で、プレイヤーの最大HPダウン、入手できる資金減少、デッキを圧迫する邪魔なカードを追加などから、任意に選んで難易度を上げることが出来る。+5からスタートし、クリアするごとに+2ずつ数値が大きくなり、最大で+50まで用意されている。難易度を最大まで上げるには最低でも23回はクリアする必要があり、ボリューム満点である。

Vault of the Void カオスの追加
無難な制約から致命的なものまで、23種類用意されている。

黙々と難易度を挙げていくだけでは面白くないと思うかもしれないが、チャレンジコインという変則ルールが適用されるモードも用意されている。変則と言ってもゲームの進行自体は通常モードと変わらないが、初期装備として特別な効果を発揮するレリックを持ってゲームをスタートすることになる。

Vault of the Void チャレンジコイン
チャレンジコインは本編で獲得したスコアで解放可能。

インポッシブル+で行き詰った時には気分転換でチャレンジコインを遊ぶと良いだろう。特殊なレリックを持つということは、ある程度ビルドの方針が定められたモードとも言えるので、新たな気付きを得てプレイスキル向上も期待できる。チャレンジコインにも難易度があり、インポッシブル+30で遊ぶことが出来る。

ここまで遊び方が用意されれば、Slay the Spireを極めたというプレイヤーであっても存分に楽しめるのではないだろうか。

評価ポイントのまとめ

Slay the SpireとVault of the Void、どちらが上と判断するかは人次第だが、デッキ構築型ローグライクゲームを初めて遊ぶのであれば、Vault of the Voidをオススメしたい。Vault of the Voidの予定調和で進むゲーム性に物足りなくなれば、対応力が求められるSlay the Spireを遊べば良いだろう。

2022年10月の正式リリースの現時点ではパブリッシャーが付いておらず、家庭用機への移植は恐らく計画されていない。スペックを要するゲームでは無いので、これを機にSteamに手を出しても良いだろう。

長所

  • StSに劣らないデッキ構築の楽しさ
  • チュートリアルや難易度の充実
  • 運要素が少ないと言いつつも、ある程度のランダム要素もあり

短所

  • ハマり過ぎると他のゲームが手に付かなくなる。
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